2021.5.24 12:00

【ベテラン記者コラム(149)】最強レッドブル・ホンダの座を射止めた自称「地球上で最も愚かな男」

【ベテラン記者コラム(149)】

最強レッドブル・ホンダの座を射止めた自称「地球上で最も愚かな男」

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レッドブル・ホンダのセルヒオ・ペレス(C)Getty Images / Red Bull Content Pool

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 いぶし銀の走りだった。23日に行われた自動車レースの最高峰、F1シリーズ第5戦モナコGP決勝で、ホンダがパワーユニット(PU)を供給するレッドブルのセルヒオ・ペレス(メキシコ)が4位に入った。予選は9番手と振るわなかったが、定評があるタイヤのマネジメント能力を生かし、レッドブルの製造者部門首位浮上に貢献した。

 ペレスは昨季、F1ドライバー初の新型コロナウイルス感染者となり、第4戦英国GPと第5戦70周年記念GPを欠場した。「今ではこのウイルスに感染するのは、かなりありえる事態になった。でも当時は『ウイルスの感染してしまった、僕は地球上でもっとも愚かな男だ』と思った。それに対処するのはとても難しいことだった」と振り返る。

 2011年にザウバー(現アルファロメオ)からF1デビューを飾り、小林可夢偉とは2年間、同僚だった。13年に名門マクラーレンに移籍したが、元総合王者ジェンソン・バトン(英国)に大差をつけられ、わずか1年で離脱。翌14年からフォースインディアに活躍の場を求めた。

 中堅ドライバーとして足場を固める中、フォースインディアは18年7月に共同オーナーの金銭トラブルが発覚し、資金繰りが悪化。破産手続きに入った際、中心的な役割を果たしたのがペレスだった。財政状況が悪化し存続危機に立たされたが、カナダの資産家ローレンス・ストロール氏が率いる投資家グループが救済し、レーシングポイントに名称を変更して消滅は免れた。

 ペレスは昨季までの2年間、ローレンス氏の息子で、チームメートとなったランス・ストロールを圧倒。昨季は第16戦サキールGPではF1史上最も遅い出走190戦目での初優勝を果たし、ドライバーズ部門で自己最高の年間4位となった。それでもフェラーリのシートを失ったセバスチャン・フェテル(ドイツ)にはじき出される形で、7年間在籍したチームを去ることになった。

 浪人を覚悟したベテランに白羽の矢を立てたのがレッドブルだった。05年にF1参戦以降、一貫して育成システム「レッドブル・ジュニア」出身ドライバーにこだわってきた強豪が、異例の決断を下した。“外様”を招いたのは07年から13年まで所属したマーク・ウェバー(オーストラリア)以来となる。

 レッドブルは今季、世界有数の通信会社「アメリカ・モビル」と1年契約を結んだ。同社は複数の通信会社を展開するメキシコ企業で、創業者は大富豪として知られるカルロス・スリム氏。これまでもペレスのレース活動をサポートしてきた人物だ。

 今季の車体「RB16B」には、スリム氏が傘下に収める「テルセル」がフロントウイング翼端板の内側、「クラーロ」はリヤウイング翼端板の上部にロゴが貼られた。昨季限りでタイトルスポンサーだった英高級車メーカー「アストンマーティン」を失ったチームを財政面でも支えている。今年限りでF1活動を終了するホンダに30年ぶりの世界王座をもたらすかは、苦難の道を歩んできた31歳のメキシカンにかかっているといっても過言ではない。(江坂勇始)