2018.5.23 12:00

移動する民たちの悲哀とバイタリティー 映画「焼肉ドラゴン」/週末エンタメ

移動する民たちの悲哀とバイタリティー 映画「焼肉ドラゴン」/週末エンタメ

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週末エンタメ芸能記者コラム
映画「焼肉ドラゴン」(C)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会

映画「焼肉ドラゴン」(C)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会【拡大】

 舞台は1970年前後の関西のとある都市。伊丹空港の近くにあるその街は、上空を飛行機が轟音を上げて飛び交い住環境は劣悪。それでも明日を信じて必死に生きる在日一家の姿を切なく、ユーモラスに、そして力強く描いているのがこの「焼肉ドラゴン」という映画だ。

 2008年に上演されて演劇賞を総なめし2011年、2016年に再演された人気舞台の映画化。高度経済成長から取り残されたようなバラック街には朝鮮半島出身者とその一家、友人らが肩を寄せ合って生きている。派手な夫婦げんか、激しい罵倒、酒を飲んでの乱闘は日常茶飯事。それでも物語は陰鬱には傾かない。むしろ人間のむき出しの感情がエネルギッシュで前向きな方向へと観客を強く引っ張っていく。それを可能にしているのが俳優陣の凄まじい熱量だ。

 3姉妹を演じた真木よう子(35)、井上真央(31)、桜庭ななみ(25)は従来のパブリックイメージを覆すほどの激しい演技で見る者を圧倒する。“以心伝心”などという言葉はこの映画の世界観では通用しない。ほとばしる感情を激しい言葉でぶつけあうことでお互いの生を確かめあう。真木、井上、桜庭ともにこの映画で一皮むけた印象だ。

 とくに井上の野獣のようなキスシーン、桜庭の乱闘シーンには目が釘付けになった。俳優、大泉洋(45)の豪快な酔っ払いぶりも突き抜けている。

 3姉妹の“アボジ(父)”を演じた韓国の名優、キム・サンホ(47)と“オモニ(母)”を演じた同女優、イ・ジョンウン(48)の渾身の演技がさらに作品に力を与えている。「働いて、働いて…」。キムのこの台詞は「明日への希望」のための労働であることを明示し、それは家族を守るためのものでもあるのだ。

 ラストで待ち受ける家族の過酷な運命すら“希望”へと導いていく鄭義信監督(原作・脚本)の視線の温かさに観客は優しく包み込まれていくだろう。

 しかし、過酷な運命をたどったのは決して「焼肉ドラゴン」の一家に限った話ではない。グローバリゼーションと続発する地域紛争で人々は移動を余儀なくされており、今世紀は移動の時代とも呼ばれている。世界中で移動を強いられる人々の暮らしに対する想像力を働かせること。それがこの映画の現代的意義ともいえる。(シネマノミカタ)

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