2020.8.16 05:00

【甘口辛口】「自分の死後、誰にも負担をかけたくない」 渡哲也さんが貫いた優しさあふれる男の美学

【甘口辛口】

「自分の死後、誰にも負担をかけたくない」 渡哲也さんが貫いた優しさあふれる男の美学

 ■8月16日 肺炎のため10日に死去した俳優、渡哲也さん(享年78)の穏やかで品のある話しぶりは今も忘れない。どんな質問にも丁寧に答えてもらった記憶がある。大スターなのに、威圧感がない。撮影現場でも、渡さんが柔和にほほえむだけで、周囲を温かく包み込む空気が流れていた。

 葬儀は「静かに送ってほしい」という故人の遺志で14日に東京都内の斎場で家族葬として営まれ、舘ひろし(70)ら石原軍団の俳優も参列できなかった。渡さんが社長を務めた石原プロは文書で「誠に勝手ながらご香典、お供物、ご弔電、ご供花などの儀は故人の遺志により固くご辞退申し上げます」と説明した。

 渡さんといえば、ドラマ「西部警察」シリーズなどで銃撃戦やカーチェイス、爆破シーンなど、ド派手な演出で多くの視聴者をスカッとさせた。しかも、阪神大震災や東日本大震災の後には、すぐ軍団を率いて被災地へ。ボランティアとしてカレーライスや焼きそばの炊き出しを行い、どれほど被災者を元気づけたことだろう。

 葬儀には参列できないにしても、お別れ会や偲ぶ会が開かれるのなら、ぜひ花の一輪でもたむけたいと思ったファンも多いのではないか。しかし、石原プロによれば、追悼イベントも故人の遺志で一切、行われない。意外に思い、残念がる人も多いかもしれないが、実はコロナ禍以前の昨年、小欄はたまたま故人の遺志を知人から聞いていた。

 知人によると「渡さんは『自分の死後、誰にも負担をかけたくない』と話していた」という。確かに、追悼イベントを開けば、金銭面の出入りだけでなく人手もかかる。渡さんらしい優しさあふれる男の美学を貫いたのではないか。合掌。(森岡真一郎)